シロアリの女王を徹底解説!知られざる生活に迫る|シロアリ1番!
COLUMN
シロアリコラム
投稿日 2020.07.15 / 更新日 2021.01.13
シロアリ駆除
シロアリの女王を徹底解説!知られざる生活に迫る
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大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。大学の海外調査にも協力。しろあり防除施工士。白蟻専科研究室長。
YouTube:シロアリ駆除Channel
このような方のためにこのページではシロアリの女王について
- 見た目の特徴
- 巣での役割
- 女王が持つ特殊な力
- 効果的な駆除の行い方
といった視点で解説をしていきます。
目次
羽アリの正体は「シロアリの女王と王」!
皆さんは「群飛」という現象をご存知でしょうか。
群飛とは、4月の中旬から5月にかけて、普段土の中にいるシロアリたちが羽アリへと姿を変え、一斉に空中へと羽ばたいていく現象のことをいいます。羽アリは元々は「ニンフ」と呼ばれているシロアリで、巣の中で冬の間に自らの姿を変えているのです。
ではシロアリたちは何故そのようなことをするのでしょうか。それは「繁殖のため」です。
実は羽アリの正体は次世代の「女王」と「王」になるシロアリなのです。
これはシロアリに限ったことではなく、クロアリもシロアリ同様に羽が付いているものを見かける時期がありますが、これもシロアリと同じく次世代の女王アリと王アリです。
お客様とお話をしていると女王アリや王アリを「別の虫なのかな?」と思ってしまわれている方を多く見受けますが、やはり羽がついていると見た目の印象が変わってしまうからだと思います。
もし「そんな話初めて聞いた」いう方も
- 羽アリの正体はその虫の女王様と王様
- 羽アリは「恋」のために飛ぶ
ということを是非覚えていってください!
シロアリの女王の体の特徴
まずはシロアリの女王について大まかな特徴から見ていきましょう。
シロアリの女王といっても、シロアリにも様々な種類がそんざいし、女王の特徴も異なってきます。ですのでここでは最も一般的なシロアリである「ヤマトシロアリ」の女王アリの体の特徴について紹介していきます。
ここではシロアリの女王の特徴として
- 体が黒い
- 体にくびれがない
- 他のシロアリと比べた大きさ
この3つについてご紹介していきます。
体は黒色をしている
まず皆さんが女王アリを目にするのは上記でお伝えした通り、「羽アリ」という形が大半だと思います。しかし女王アリを見てももしかすると「あれっ」と思ってしまうかも知れません。なぜなら、色が全く白くないからです。
普通に考えれば「シロアリ」というくらいなので白を想像してしまいがちですが、女王アリの色は黒が主体で胸に黄色い線が入っているのが特徴です。しかしこれにはちゃんとした理由があります。 それは、「紫外線から身を守るため」です。
紫外線は皆さんもご存じの通り、強い波長の光(電磁波)であり、人間でも皮膚に紫外線が当たり続けると体に障害が起こるほど影響があります。ましてや常に地面の下で生活してきたシロアリの女王にとっては非常に脅威であることは想像に難くありませんよね。しかし、女王アリは結婚飛行のために外に出なければなりません。
そこで女王アリは紫外線から身を守る手段として巣から飛び出る前に黒色のメラニン色素を体に纏うという「準備」をあらかじめ行います。だから女王アリの色は黒くなるのです。
体にくびれがない
シロアリ全般に言えることですが、体型は寸胴型というのが定説です。虫の体は大きく
- 頭部
- 胸部
- 腹部
の3つにパーツに分かれますが、シロアリは胸部と腹部がほぼ一体化して見えるほどくっついているため、体にくびれがなく、胸から腹部にかけての太さがほぼ一緒なのが大きな特徴です。
この特徴は 女王アリでも全く同じで慣れればすぐにシロアリだと気づくことができるはずです。シロアリの羽アリはよくクロアリの羽アリと間違われることがありますが、この特徴を知っていればほぼ間違えることはありません。
クロアリでは頭部・胸部・腹部がはっきりと区別が付くほどくびれており、クロアリには胸部と腹部の間に腹柄節(ふくへいせつ)と呼ばれる箇所があり、そのせいで更にくびれて見えるため、シロアリとは区別しやすいことを覚えておきましょう。
女王は他のシロアリに比べて大きい
羽アリとなって飛び立った直後の女王アリは数㎜とさほど働きアリと変わらない大きさをしています。しかし新しく作った巣が段々成熟してくるにつれ、女王アリは卵巣が発達して腹部が大きくなっていきます。
ヤマトシロアリでは女王の大きさは最終的には1㎝を超えるまでに成長するから驚きです。とはいえ、ここまで大きくなった女王アリは巣の奥底の一番安全な場所で守られているため、私たちが目にすることはほぼできないでしょう。
シロアリの女王と王は常にペアで行動する
昆虫界ではシロアリの王と女王は「仲がいい」ことで有名です。
無事ペアを見つけて結婚飛行を終えたシロアリの女王と王は、自分たちの新たな王国を築くべく常に行動を共にします。
このとき、ペアになったシロアリの女王と王は巣作りに適した場所を見つけるまである面白い行動をします。それは、2匹が連なるようにして一列に並んで行進するのです。このことは「追尾行動」と呼ばれています。
これは、女王が特有の匂いを出しており、それに釣られた王が女王のお尻にぴ ったりと張り付いてその後を追尾するためです。
余談ですがシロアリの追尾行動を直接見ることができるのは非常にレアケースです。これはシロアリの女王を見ることができる機会はそうそうあるものではなく、人が目にできる場所に出てくるのはこの結婚飛行の時のみ、その時期もたった一か月あまりと短いからです。
シロアリの王と女王の仲がいいと言われている理由はこれだけではありません。シロアリの王と女王がペアで行動をするのは追尾行動の時だけではなく、地中に潜った後もその一生を終えるまで生活をともにします。
「え、それが理由なの?」と思う方もいるかも知れませんが、実は昆虫の中でもこれほどまで雄と雌が共に過ごしている例は本当に少ないのです。
一般的に昆虫の世界では雌が全てであり、雄の存在は常に繁殖特化型、つまり交尾を終えたらその一生を終えるという方がごく普通で、雌と一緒に子育てをするという概念は存在しないのです。
シロアリの王と女王の絆はとても強い
ということを覚えておきましょう。
シロアリの女王が持つ特殊な生態
ヤマトシロアリの女王は他の昆虫とは異なる恐るべき生態を持っています。それは「分身の術」を使えることです。
ヤマトシロアリの世界では女王アリと王アリでは寿命が大きく異なり、女王アリは割と早期に新しい女王アリ(二次女王)に置換されると言われています。
「あれ?仲がいいんじゃなかったの?」と思うかも知れませんが、女王アリは有性生殖と無性生殖を使い分けており、二次女王の全てはこの女王アリが無性生殖で作っています。
どういうことかというと、新しい女王アリはすべて自分の「分身」なのです。
ヤマトシロアリの女王は自分が死ぬまでに多くの分身を作り出し、巣の爆発的な拡大を図ります。この戦略は、健全でフレッシュな遺伝子を後世にまで半永久的に残していく上でとても有効な手段であると言えます。ずっと同じ女王アリではやがて訪れる衰えなどから徐々に健全な遺伝子を伝えられなくなってくるからです。
ヤマトシロアリの創設女王は死してなお生き続ける、言い換えれ ば永遠の命を手に入れていることと変わりはないのです。
ここからは余談ですがこの話を聞くと「完全なコピーだと環境の変化に弱くなってしまうんじゃないの?」と生物の勉強をしている人なら思うかもしれません。しかしその心配はありません。
少々難しい話になってしまいますが、せっかくなのでシロアリの遺伝子についてもご紹介したいと思います。
遺伝子は生き物にとって「設計図」です。
しかし中には「同じ場所について書かれた異なる設計図」を一緒に持っている場合があります。異なる設計図同士のことを「対立遺伝子」といい、持っている設計図の組み合わせのことを「遺伝子型」といいます。
例えば、ヒトの血液型についての遺伝子型には
- AA
- AB
- AO
- BB
- BO
- OO
の6種類の遺伝子型があり、AOならばA型になりますし、ABならばAB型になります。血液型がA型の人も「O型の血液の設計図」を持っている場合があります。
ちなみに、AAやBBのように「同じ設計図」を持っている場合は「ホモ型」といいます。
創設女王のシロアリの遺伝子型を「AB」としてみましょう。
無性生殖で作られた二次女王の遺伝子型は全てホモ型になる、という特徴があります。例えば親の遺伝子型が AB ならばその分身の遺伝子は「AA」か「BB」のどちらか、といった具合です。
さて、ヤマトシロアリが1つの細胞の中に持つ遺伝子型の数は「21個」あります。先ほどの「AB」の遺伝子型を持つシロアリの女王が作る分身の遺伝子は全部で何パターンあるでしょうか。
わかりにくい方は、コイン投げを21回行った時すべての表裏の組み合わせは何通りあるでしょうか、と置き換えてみてください。
答えは200万種類以上、つまり、分身として生まれる二次女王が持つ遺伝子のパターンも200万通りを超えることになります。
「分身」とはいっても、遺伝子レベルでは二次女王同士が完全なクローンになる可能性はほぼありません。
シロアリの女王は実質的な「永遠の命」を手に入れながらも、環境の変化にも柔軟に適応するための作戦をしっかりととっているのです。
シロアリの女王の仕事はただ一つ
シロアリの生態は「階級社会」と呼ばれており、すべてのシロアリが役割を持っています。これは女王も例外ではありません。女王だからといって何もしないのではなく、自らの仕事を行っています。
ではシロアリの女王アリの仕事とは何でしょうか。先ほどの話にも関連しますが「卵を産む」ことです。
巣を創設したシロアリの女王は働きアリ(職蟻)が生まれるまでは王のシロアリと一緒に卵の世話をしますが、巣が大きくなり職蟻が生まれてくるとその行動は卵を産むことに専念するようになり、やがてほかの作業はしなくなります。
ところで一日に女王はどれくらい卵を産むかご存知でしょうか。シロアリの女王が産む卵の数は意外と知られていないが、ヤマトシロアリで言えば一匹の女王が一日に産める卵の数は 25個程度と言われています。
つまり、一年間だと9,000個ほど、ということになります。
この数字を見て「そんなにたくさん!」と思うか「たったそれだけ?」と思うかは感じ方によって異なってくるとは思いますが、アフリカのシロアリは一日に6000~7000個生むという報告もあり、それに比べると非常に少ないと言えます。
これはヤマトシロアリが自身の生活様式に合わせて産み方を調整しているからです。
シロアリには
- 巣を作りそこを根城にする種類
- 決まった巣を持たずに移動を繰り返す種類
の2種類が存在します。
日本のヤマトシロアリは決まった巣を持たず、エサとして食べた木やその周辺を一時的な巣として利用し、移動を繰り返しながら生活しています。人間でいう「ノマドスタイル」といったところでしょうか。
しかしこの生活スタイルは女王自らも移動しなければ成立させることはできません。確かに女王の仕事は卵を生むことではありますが、だからといってあまり自らの卵巣を発達させすぎると移動が難しくなってしまいます。
日本に生息するもう1種類のメジャーなシロアリであるイエシロアリと比較してみましょう。イエシロアリは、特定の巣を作りそこに定住し、一生をその場所で過ごすことになります。イエシロアリが一日に産める卵の数は 300 個以上と言われており、年間では一匹の女王が10万個もの卵を産むことができます。その代わりイエシロアリの女王アリの卵巣はあまりにも発達しているため、自由に動くことができなくなっています。
ヤマトシロアリは「卵を産む力に制限をかける」ことと引き換えに「自由に移動を行う力」を手にしているのです。
しかしヤマトシロアリには「一度に生める卵の個数が少ない」というデメリットをなくす仕組みがあります。勘のいい方は気づいたかも知れませんが、先ほどの「女王アリの分身の能力」を思い出してみましょう。
ヤマトシロアリは巣が拡大されるにつれ女王アリも多くの二次女王に置換されていきます。これまでに確認された最大数だと一つの巣に対し二次女王が600 匹を超えていたケースもあるようです。
そうなるとすべての女王が生む卵を合計すると一日で15,000 個にもなり、年間ではなんと 500万個を産んでいることになるのです。
もちろんこれはあくまでも理論の上での話であり、全部がこのような大きさになるわけではありませんが、このような特殊な技を駆使してヤマトシロアリの社会は爆発的に拡大していく可能性を秘めているのです。
シロアリを駆除する時は女王よりも王を優先
シロアリの駆除において大切なのは「女王」と「王」の存在ですが、厳密に言うと女王よりも王を駆除することのほうが重要です。その理由は、王は女王と違い「分身」の能力をうまく使えないからです。
ヤマトシロアリの女王アリは寿命が長いわけではありませんがその代わりに自らの分身を作り出す能力でそれを補っています。しかし長命であるシロアリの王はそれを想定していないのです。
確かに万が一王が死んでしまったとしてもその代わりとなる「副王」を理論上生み出すことはできます。しかし副王はごく稀にしか生まれない非常にレアな存在であり、シロアリの世界では王の寿命がその巣の寿命とも言われています。王が死んだ巣はほとんどの場合、崩壊していく運命にあるのです。
シロアリの駆除を行う上での優先度は
王>女王>職蟻(ニンフ等も含めた)>兵蟻
の順となります。
余談にはなりますが覚えておいて欲しいのは、シロアリ対策には
- 駆除
- 防除
の2つのアプローチがあるということです。
駆除はシロアリの巣の内部にまで影響を与え、最終的には巣ごと全滅させることを目的としています。
一方で防除は巣にまでは干渉せず、建物のシロアリが侵入する可能性がある箇所への薬剤処理を施し、建物にシロアリが 侵入してくるのを防ぐ処理をすることが目的です。
「シロアリの駆除」という視点ではシロアリの王を駆除することが大切ですが、「建物をシロアリから守る」という視点では必ずしもシロアリの王や女王の駆除を意識する必要はないのです。
まとめ
今回はシロアリの女王についてその役割や種を存続させるための工夫についてご紹介してきました。
シロアリは非常に小さい生き物ですが、自分たちの生存を掛けた様々な工夫を凝らしている事がわかっていただけたのではないかと思います。私たちにとってはその生命力の強さが脅威になることもあるシロアリですが、その生態を知ることにより「共存」も可能になります。
こちらのページではシロアリについて、女王というテーマ以外にも様々な角度から紹介していますので、興味がある方は是非参考にしてみてください!