シロアリの生態を徹底解説!地球上の大先輩の秘密に迫る!
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シロアリコラム
投稿日 2018.05.06 / 更新日 2023.08.31
シロアリ駆除
シロアリの生態を徹底解説|地球上の大先輩の秘密に迫る!
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大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。大学の海外調査にも協力。しろあり防除施工士。白蟻専科研究室長。
YouTube:シロアリ駆除Channel
シロアリは人間が誕生するはるか昔、3億年も前から地球上に存在する生き物です。3億年前というと、恐竜すらも存在しなかった時代。そんな時代から今まで絶滅することもなく生活を繋げてきたシロアリはどのような生活をしてきたのでしょうか。その生態について見ていきましょう。
この記事ではシロアリの生態について詳しく解説します。
目次
シロアリと「アリ」は異なる生態
シロアリは名前からして、“アリの仲間“と思われがちですが、異なる昆虫です。
アリは完全変態と呼ばれる生き物で、卵・幼虫・蛹・成虫という順番で成長しますが、幼虫はウジ虫のような形をしています。私たちが普段良く見かけるアリはすべて成虫なのです。
アリの一種アズマオオズアリ
一方でシロアリは不完全変態と呼ばれる生き物です。シロアリは卵・幼虫・成虫と成長しますが、幼虫と成虫では大きさの違いこそあるものの、その外見は同じ見た目をしています。
また、クロアリやハチの幼虫は生き抜く力が弱く親や仲間に助けてもらわなければ生きていけませんが、シロアリは卵から孵化してすぐに動き回れるようになります。このような体の作りの違いは、それぞれのルーツの違いから生まれます。
イエシロアリ
シロアリはゴキブリから進化した虫で、シロアリの朽ちた樹木を食べる習性はキゴキブリ属に由来しているとも言われています。また、シロアリは「エサを調達する」「巣を作る」「外敵と戦う」などの役割を分担して共同生活を始めた最初の生物といわれています。
一方でアリは何の仲間になるのかというと、ハチから進化した昆虫です。じっくり観察してみると、ハチとアリは大きさが異なるものの、胴体のクビレなどの特徴が似ていますよね。
アシナガアリ
アリやハチが地球上に現れたのは1億数千万年前と言われていますが、対してシロアリも約1億5千万年前から生息している大先輩な生物なのです。
では、シロアリはどうしてアリと名付けられたのでしょうか。それは「似ているから」です。卵から孵化して幼虫となったシロアリは、やがて職蟻や兵蟻、有翅虫などに成長(分化)し、女王と王を中心に数万から100万という大きな集団を形成して人間のような社会生活を営みます。
イエシロアリの副生殖虫
シロアリとアリが全く違う昆虫でありながら名前が似ているのは、社会生活をおこなう生態、形状、大きさなどの類似性から来ているのです。
ちなみに、シロアリと普通のアリにも実は意外な関係性があります。それは、天敵であるということです。アリはシロアリを捕食し、シロアリはアリに捕食される関係にあります。被害現場でシロアリの被害材にアリの一種オオハリアリが紛れ込んでいることがありますが、これは紛れもなくシロアリを捕食しに来ているのです。
シロアリは集団行動で生態を保つ
シロアリの生態について「集団行動」という側面からもう少し詳しく見ていきましょう。先ほどシロアリは生まれてすぐに動き回れるようになるとご紹介しましたが、そのことからすべてのシロアリはコロニー内において仕事や役割を「階級」という形で与えられています。
シロアリの職業を分類すると、木材を食害するシロアリ、巣を作るシロアリなど、生活を支えるシロアリは職蟻(しょくぎ)と呼ばれ、外敵から巣を守るためのアリは兵蟻(へいぎ)と呼ばれます。また、子孫を増やすために新しい巣をつくる役目をもつ羽アリなどもいます。
女王・王 | 一つの巣に1頭ずつおり、生殖活動に専念します |
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副生殖虫 | 女王・王が死亡したときに代わりとなります |
ニンフ | 新しい巣をつくるために羽アリとなって飛び立つ前の段階です |
兵蟻 | 全体の約3%ほどで、外敵と戦ったり偵察、仲間の護衛をします |
職蟻 | 全体の90%以上を占め、エサの採取、卵・幼虫の世話、巣の構築等をこなします |
シロアリの役割分担は具体的には上表のように分かれています。シロアリは幼虫の段階ではすべてが同じですが、女王・王の分泌するフェロモンによってどの階級に分化するかが決まります。コロニーがある程度大きくなるとニンフが増え、その後ニンフは羽アリとなり外部に一斉に飛び立つのです。
ヤマトシロアリの群飛
通常、シロアリが人の目に触れるのはこのときだけで、シロアリ被害のある家屋では浴室や洗面所、玄関など室内から大量に発生します。羽アリは数十から多いと数百頭も短時間で一気に発生します。そのためその数の多さから羽アリが出切ったらシロアリが居なくなると誤解されてしまいがちですが、羽アリは一つのコロニー(巣)の僅か数%に過ぎません。巣の中にはまだ大多数のシロアリが集団で活動しています。このように人間のような社会性がシロアリが自身の生態を守ってきた秘密であると言えます。
チクシトゲアリの固い外骨格
ちなみに、クロアリやハチは基本的には集団行動を行いますが、俊敏な動きを活かした単独行動を行うことも可能です。これは、外骨格という硬い皮膚を持っており、ある程度なら外敵から身を守ることができるからです。一方、シロアリの皮膚は未発達のままであり、クロアリやハチのように戦闘能力が高いとはいえません。また、動きも遅く、外敵から身を守る術にも乏しいことから、常に集団で行動しています。
シロアリは、集団行動することで外敵からの被害を軽減しており、シロアリにとっては集団行動そのものがクロアリやハチにとっての外骨格(バリア)の役割を果たしているのです。こうした社会性の高さによる行動が、シロアリの3億年以上にもおよぶ繁栄を支えてきたといえます。
オスとメスのバランスの良さが巣のバランスを保つ秘訣
集団で生活を行うという点ではシロアリとアリは似ていますが、その実態はかなり異なります。クロアリやハチに代表される「膜翅目(まくしもく)」と呼ばれる昆虫のグループは、メスのみの社会を形成しており、オスは年に一度だけ交尾のために巣へやってくる程度です。しかも、交尾後にオスは死んでしまいます。完全なメス社会だといえるでしょう。
対して、シロアリにはオス・メスの区別があり、膜翅目と比べるとオス・メスのバランスが良いです。生殖能力は基本的に未発達ですが、生殖階級に成長すると生殖能力が発現します。(種によっては多少ルールが異なります)。これは「シロアリの巣(コロニー)内におけるオス・メスのバランスを保つため」という説があり、種族を繁栄させる能力が長けていることが分かります。
シロアリの日本国内での生態
日本には24種のシロアリがいることが確認されています。とはいえ、そのほとんどが沖縄などの亜熱帯地域にしか生息していません。国内に広い範囲で生息するシロアリは主にヤマトシロアリ、イエシロアリ、アメリカカンザイシロアリの3種類です。
ヤマトシロアリの兵蟻と職蟻
日本で最も広い範囲で生息しているのは「ヤマトシロアリ」です。北海道の一部の非常に寒冷な地域を除いて日本の全土に生息しています。シロアリ1番!に寄せられるシロアリ被害のご相談も、大半はヤマトシロアリによるものです。シロアリのような生き物を見かけた場合は、まずはヤマトシロアリの可能性を疑うようにしましょう。
イエシロアリの女王・王・兵蟻
イエシロアリは日本の中でも温暖な地域のみに生息するシロアリで、東日本では千葉県や神奈川県の沿岸部、伊豆諸島、小笠原諸島など生息地域が限られています。イエシロアリは、ヤマトシロアリやアメリカカンザイシロアリよりも活発なシロアリです。その分、建物の被害も大きくなってしまいがちです。
アメリカカンザイシロアリのコロニー
アメリカカンザイシロアリは1970年代に日本で初めて発見された外来種のシロアリで、輸入家具に紛れて日本に運ばれたといわれています。在来種のヤマトシロアリやイエシロアリと違い「土の中で生活をしない」のが特徴です。生活範囲を急速に広げることはなく、日本各地の限られた地域にのみ点在しています。
シロアリが生態を守るための工夫
先ほどシロアリはゴキブリの仲間とお話ししましたが、シロアリはゴキブリと違い非常に弱い生き物です。光や風がとても苦手で、他の生き物にはすぐに食べられてしまいます。そんなシロアリがどうやって自然界で何億年も生き残ってきたのでしょうか。
シロアリはバクテリアと共存して栄養をとっている
シロアリが「木を食べる生き物である」ということは何となくイメージとして持っていると思いますが、実際にどのように栄養を取っているのかについてはあまり知らない人が多いのではないかと思います。
シロアリは木材の主成分であるセルロースを栄養としています。ですので、セルロースが原料の本や新聞紙、ダンボールなども栄養にすることができます。木材が原料のものであれば、基本的に何でも食べてしまうのです。むしろ、新聞紙やダンボールは木材に比べ柔らかいため、シロアリからするとご馳走です。
しかし実はシロアリが木を消化できるわけではありません。シロアリがセルロースを分解・利用できるのは、後腸内に原生動物が住み着いているからで、この原生生物がいないとシロアリはうまく木材を分解することができません。シロアリは他の生き物と共生することで自身の生態を保っているのです。
シロアリは「フェロモン」を利用して生活している
シロアリは基本的には光の当たらない場所で生活をしている生き物です。そういった生き物の多くは目が退化している事が多いですが、シロアリも同様にほとんど目で見ることができません。シロアリは目の代わりに様々な場面でフェロモンを利用します。
例えば働きアリが出す「道しるべフェロモン」は仲間が自分と同じ場所を移動できるようにするためのもので、シロアリはこのフェロモンを利用して行列で移動しています。
その他にも、万が一巣が襲われたときに仲間に危険を知らせるための「警報フェロモン」や先ほどのシロアリを「階級分け」するのに利用する「階級分化調節フェロモン」などがあります。フェロモンはシロアリの生態には必要不可欠なのです。
再生に特化した特殊な階級
シロアリには職蟻と呼ばれる階級が存在することをご紹介しましたが、シロアリの中には他の種類にはない独自の生態を持っているものも存在します。その例が乾材シロアリです。乾材シロアリは擬職蟻(ぎしょくぎ)という独自の階級があります。
擬職蟻と羽化したての羽アリ
一般的にシロアリが分化するには兵蟻やニンフは職蟻からしか分化できず、羽アリ(新女王・新王)はニンフからしか分化できないというのが基本です。しかし擬職蟻を持つ乾材シロアリは例外です。擬職蟻は全ての形態に分化する能力を持っています。このことは種を存続させる上で大きな強みになります。
例えばヤマトシロアリは「何かの拍子に個体数が大幅に減ってしまって職蟻だけが生き残った」という状況になったとしてもその巣は衰退が運命づけられています(ヤマトシロアリは25匹生き残っていれば再生可能と言われていますが、実際のところは再生されることはほとんどありません)。これは、シロアリの世界では女王が仮に死んでしまった場合でも女王の代わりになる副生殖虫は比較的簡単に発生するのですが、王という存在は特別で滅多に代わりの王となる個体は発生しないからです。
しかし擬職蟻がわずかに生き残ってしまうだけでシロアリは即座に分化して副生殖虫(副女王・副王)を作り出せるので、他のシロアリに比べ圧倒的に巣が再構築されるケースが多いのです。これはシロアリが自身の生態を守るために編み出した生き残り戦略であり、様々な知恵を絞って生み出された究極の戦略とも言えます。数で勝負することを捨てる代わりに擬職蟻という再生に特化した特殊能力を進化させていったというわけです。
シロアリは地球の生態を守る益虫
多くの人達はシロアリというと「悪い虫」というイメージを持っていると思います。これは私たちがシロアリを見かけるのが家に被害が出ていたり、敷地の木材や枕木がボロボロになっていた、などのネガティブな状況で見つける場合が多いからだと思います。
しかし地球上に存在する約3100種ほどのシロアリの内、建築物などを加害して人間の生活に悪影響を及ぼす主要なものは104種にすぎません。多少とも影響を与えるものまで含めても371種ほどです。それ以外の大半は森林に生息して枯死木や落ち葉を食物として物質循環に大きな役割を果たしています。
特に熱帯や亜熱帯地域ではシロアリが作る網の目状のトンネルが水分や通気など土壌条件の改良に重要な働きをしています。また、人間の生活に影響を及ぼすシロアリであっても、自然界では枯れ木やリターの分解を助ける益虫であることに間違いありません。人間の生活に関わると害虫として扱われてしまいますが、シロアリが地中で生活しているときや自然界では”絶対に必要な存在”なのです。
また、2019年の最新の研究ではシロアリが干ばつに見舞われた森を健全に保つ役割を果たしていることも分かってきています。シロアリが多い森林では「土壌の湿度」が保たれるため多くの木々が育ち、長期間の干ばつでもその森林の生態系に異常がみられなかったのです。
まとめ〜シロアリの生態について〜
この記事ではシロアリの生態についてご紹介してきました。シロアリが地球上で生活してきた歴史はとても長く、人間の生活史をシロアリが繁栄してきた期間に当てはめるとたった0.1%ほどにしかなりません。
そんなはるか昔から絶滅することなく生存してきたシロアリは、自然界全体で見てもとっても重要な役割を果たしています。もしシロアリがいなくなってしまったら地球上の生き物同士のバランスが崩れ、私たちの生活も成り立たなくなってしまいまいす。
木を使って造られている家に住む我々にとって、それを餌にするシロアリは建物の害虫でしかありません。ですから、つい「シロアリは全て駆除しなくては」と考えてしまいがちです。しかしシロアリは家の外であれば自然界と同様にどこにでも生息している生き物です。シロアリが家に入ってこないように予め予防(対策)をしておこうという意識を持てばシロアリと共存することができるのではないでしょうか。